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本連載を再開するにあたって、これまで九博で展示されてきた梵鐘との出会いを振り返ることから始めたいと思った。梵鐘と向き合うとき、その鐘にまつわる歴史、そして造形的な美しさだけではない、何か心に訴えかけてくるような無音の響きとでもいうような空気をまとっていることに気付かされる。それは耳には聴こえないが心に聴こえてくるような強い振動である。 九博で行われた特別展示において、いくつかの印象的な鐘と出会った。『うるま ちゅら島 琉球』展では二口の梵鐘(うるま円覚寺鐘・万国津梁の鐘)、『海の神々』展では二口の鐘(長門一宮住吉神社鐘・円照寺鐘)である。 これらの鐘との出会いは、いつしか新たなる旅への誘いとなり、実際に鐘があった場所へ行ってみたいという気持ちと期待が膨らんだ。 うるま円覚寺跡に立つ 夏の陽射しの中に映える首里城跡を右手上方に見上げる場所にうるま円覚寺(以下、円覚寺)はあった。観光客の流れからも時の流れからも切り離されたような静けさの中、そこには「円覚寺跡」との石碑と円覚寺の一部だけがひっそりと残っている。 ![]() 円覚寺跡 1492年から94年にかけて創建された円覚寺は、禅宗式の七堂伽藍を完備した琉球最大の寺院であったと伝えられる。塀をつたって一周歩いてみたが、往時の面影はそこになく、ただ放生池のみが姿を残していた。 太平洋戦争末期、円覚寺は燃え落ちたが、奇跡的に円覚寺鐘は燃え残り、戦争の悲惨さをその傷だらけの鐘身から伝えている。人々の平和への祈りが撞木となり、撞座を揺らし、円覚寺鐘の無音の音は後世へ伝えられていくのだろう。 ![]() 円覚寺放生池 万国津梁の鐘に託された思い
![]() 万国津梁の鐘 万国津梁の鐘は、銘文によれば「本州中山国王殿」にかけてあったとされる。中山殿(首里城正殿)という説に導かれるように首里城跡を目指す。復元された首里城正殿には観光客があふれ、内部観覧のための列ができていた。しばし青空を背景にして浮かび上がる朱色の正殿を見つめる。そして梵鐘をどこにかけたら収まりがいいのかを想像してみる。正殿の真正面?いや、向かって右側?それとも左側だろうか?高さ154.5センチメートル、口径94センチメートル、重さ600キログラムの梵鐘を支えられる強度はあるだろうか等と変な心配までしてしまった。 ![]() 首里城正殿 「万国津梁の鐘」は、その銘文の中の「万国之津梁」の句をとった愛称である。琉球は日本とアジアをつなぐ掛け橋としての存在であるという強い意識と理想が垣間見えてくる。この愛称で呼ばれるようになったのは、決して時代を遠く遡るほどではない。廃藩置県後、那覇市西町の真教寺に移管されていたところ、昭和14年に首里城へ返す運動が起こったことによって昭和18年に首里城博物館に展示されるようになったとのことである。終戦まで2年という時期である。 円覚寺鐘と同様、この万国津梁の鐘もまた奇跡的に戦火を生き延び、我々の目の前にある。痛々しいまでに弾痕を残し、歴史を無言の中に語っている。 ![]() > 万国津梁の鐘(撞座) 斎場御嶽を歩く 『海の神々』展で最終室を飾った斎場御獄(せーふぁうたき)にも足を伸ばしてみた。琉球王国最高の聖地であるこの場所にも戦争の爪痕があった。砲弾が落ちて大きな穴が空き、そこに水が溜まって池となった場所である。しかしこの池の周りの木々を見渡すと、そこかしこにカエルの卵がぶら下がり、戦争の爪痕さえも繁殖の場としてしまう、自然の力強さを見ることができた。 ![]() 斎場御嶽 ![]() 砲弾池 歩みを進めると、どこからか甘い香りが風に乗ってやって来た。ガイドをしてくださった方によると、香りの正体はゲッキツ(月柑)で、ゲッキツは台風が近づくと数多く花が開くそうである。青い甘いその香りは、嵐を予感させる香りなのであろうか。 ![]() ゲッキツの花 今回の旅は梵鐘が導いてくれたように感じられる。さまざまな場所で梵鐘の音色を聴くことだけではない出会いに感謝し、また本連載を開始したいと思う。 ![]() 三庫理(さんぐーい)チョウノハナ拝所 【関連リンク】 開館記念特別展「美のシリーズ」第三弾 『うるま ちゅら島 琉球』展 [リンク] 特別展を観る:写真で巡る琉球の歴史の響「梵鐘を訪ねて」 [リンク] 開館一周年記念特別展 『海の神々』 - 捧げられた宝物 〜 [リンク] 【参考文献】 小島瓔禮著『万国津梁の鐘』(沖縄総合図書)1991年 沖縄県立博物館友の会『博友』2004年 【謝辞】 沖縄県立博物館平川信幸氏には資料の提供で大変お世話になりました。ここに感謝の意を表します。
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