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梵鐘の世界では、日本三名鐘という言葉がよく聞かれる。「姿(形)の平等院」「声(音)の園城寺(三井寺)」「銘の神護寺」であるが、現在この中で、常に鐘の音を聞くことができるのは園城寺(三井寺)のみである。 今回は、三名鐘の一つである「園城寺(三井寺)鐘」についてふれてみたい。三井寺の梵鐘は、「三井の晩鐘」とも呼ばれ、環境省による「残したい日本の音100選」の一つに選定されている。 声(音)の園城寺(三井寺) 園城寺(以下、三井寺)との出会いは数年前に遡る。坂東三十三観音・秩父三十四観音、そして西国三十三観音、あわせて百観音という日本百観音巡りをしていたときに訪れたのが最初であった。当時は観音堂を目指していたので、ゆっくりと梵鐘の音を聴く余裕がなかったように思える。その証拠に、当時のメモには「仁王門から観音堂まで距離および高低差あり。気ばかりあせって息をきらす」とあった。今思い返しても、何て余裕のない巡拝者だったのだろうと、苦笑いがこみ上げてくる。 ![]()
園城寺(三井寺)観音堂にて 2000年5月
しかし観音堂に巡拝した後の記述には、「どこからか梵鐘の音が聞こえてきた」とあり、ようやく視覚的な感覚より、聴覚への気づきが見られるようになっている。その後、聞こえて来た梵鐘を探すことなく、次の観音霊場を目指して出立していた。今思えば、何ともったいないことをしたのだろうと悔やまれる。 ![]()
園城寺(三井寺)仁王門
今回改めて梵鐘を訪ねる旅の中で、三井寺では様々な音に出会うこととなった。仁王門を抜け、緩やかな坂を上ると正面に金堂、左手に鐘楼が見える。ゆっくりと歩を進めると、やわらかい梵鐘の音が響いてくる。これから巡拝をされる方が撞いているのだろうか。また金堂左手の小高い場所からは猫のような鳴き声が聞こえてくる。鳴き声をたどって行くと、そこにはクジャクが飼育されており、猫の声色で「みゃ〜」と呼びかけると、返事をしてくれる人懐っこいクジャクたちである。 金堂左手には三井寺の語源ともなった霊泉が湧く閼伽井屋(あかいや)があり、地の底から湧き出してくる水音を響かせていた。閼伽井屋の正面上部には左甚五郎作とされている龍の彫刻が睨みをきかせ、神聖な水を守っている。閼伽井から湧く水音は絶え間なく響き、地中から水を押し上げる力強い脈動を伝えてくる。 ♪閼伽井の湧出音を聴く♪ [wavファイル][AIFFファイル]284KB ![]()
左甚五郎作
この閼伽井に湧く霊泉が、天智・天武・持統という三代の天皇の産湯として使われたことから「御井(みい)の寺」が転じて三井寺と呼ばれるようになったといわれている。 三井の晩鐘は冥加料を納めて撞くことをお許しいただく。慶長7年(1602)作という、400年以上前に制作された梵鐘を直接撞くことができるという期待を胸に、鐘楼の引き戸を開ける。玉砂利の敷かれた鐘楼内には、堂々とした梵鐘が、鐘楼の格子から差し込む光に照らし出されている。一呼吸大きく息を吸い込むと、少し湿り気を帯びた鐘木の綱を握る。綱をいっぱいに引き、瞬間、力を抜き、また握りを強くする。鐘木は梵鐘の撞座へと勢いよく吸い寄せられ、当たった瞬間にはね返された。梵鐘から発せられる音の波が皮膚を揺らし、脳を揺らし、体を通り抜けて行くのが分かる。何時までも何時までも音が続いている。表面が震えている間中、その音は鳴り止まなかった。梵鐘が発する音の波を全身で受けとめ、その余韻の中では何も考えることができなかった。 ♪梵鐘の音を聴く♪ [wavファイル][AIFFファイル]844KB 声(音)の園城寺(三井寺)を間近で聴き、確かにその響きには大きく心動かされるものがあった。それと共に、望みが一つわき上がって来た。それは、静かな琵琶湖の湖面を滑るようにして聞こえてくる遠鳴りの晩鐘を是非聴いてみたいという望みである。古人が聴いたであろうその音を、望むことは現代の音環境では難しいだろうと思いつつも。 ![]()
三井寺(園城寺)鐘
次回は、園城寺(三井寺)の歴史と「弁慶の引き摺り鐘」、そして「三井の晩鐘」が歌われた、唱歌「近江八景」についてふれてみたい。 ・http://www.shiga-miidera.or.jp/ 園城寺(三井寺)オフィシャルサイト
《次回、園城寺(三井寺)鐘(2)》
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