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イメージ 連載:梵鐘の響 〜鐘の音を聴くとき〜 第二回
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イメージ 吉津 晶子
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イメージ観世音寺の梵鐘の音1
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 初めて観世音寺の梵鐘の音を聴いたのは、年末の除夜の鐘中継であった。静けさの中に響いてくるその音は、柔らかいゆらぎの波紋を境内いっぱいに広げ、新年を迎える厳かな空気に溶け込んでいた。
 梵鐘の音は気温や湿度、そして録音状況によって左右されるが、そのとき私の耳は「ミ(E)」の少し低めの音として、梵鐘の音をとらえていた。そのときは何気なく「ミ」と感じていたのだが、後に梵鐘の音について調べるにつれ、梵鐘の音の一部分しかとらえていなかったことに気づかされていくのである。
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「アタリ」「オシ」「オクリ」の3つの音
 梵鐘の音には、「アタリ」「オシ」「オクリ」という3つの音があり、その3つの音がバランスよく響くのが良い梵鐘であるといわれている。中川眞氏はこれら3つの音を、
(1)梵鐘の鳴り始め(鐘を撞いた瞬間の衝撃音でほとんど音高はわからない)
(2)安定した音高(多くの音が同時に鳴っているので梵鐘の音は複雑になる)
(3)鳴り終わり(徐々に音が消えていき一つの音だけが残る)
と分類している。その上で、最後に残る音を基音(梵鐘の基本的な音高)であると述べている。
 音の分析はFFT(高速フーリエ変換というプログラムの略称)分析器を使用し、梵鐘の構成音を周波数毎に分解して行われる。音というものは、目に見えない空気の振動であるが、FFT分析器を通すことによって、客観的な数値とグラフで音をとらえることができるのである。梵鐘の音を分析し、周波数で比較するという研究が栗原正次氏や大熊恒靖氏らによって行われている。それらの研究結果の一部が以下の表である。
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周波数と音高
 各国バラバラの標準ピッチを国際標準ピッチA=440Hzと定めたのは、1939年のロンドン国際会議でのことである。1Hzとは1秒間に一回の振幅である。つまり440Hzとは、1秒間に440回の振幅をもつ周波数のことである。Aとはラ(日本音名:イ)のことである。二倍の880Hzは1オクターブ上のラ、逆に1/2の220Hzは1オクターブ下のラということになる。
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 対照表と栗原氏や大熊氏の研究結果を照らし合わせると、観世音寺鐘と妙心寺鐘の基音が何の音であるかが分かってくる。
 観世音寺鐘は「ラ#/シ♭(A#/B♭)」、妙心寺鐘は「シ(B)〜ド(C)」あたりの音である。
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科学的機器か聞こえか
 ここで一つの疑問がわいてくる。私の耳で聴き取った観世音寺鐘の音は、「ミ(E)」だったはずなのだが、周波数分析では「ラ#/シ♭(A#/B♭)」という結果が出てきているのである。耳がおかしくなったのか?と思い、もう一度聴いてみる。やはり「ミ(E)」の音が前面に聞こえる。何度も聴き直すうちに、グオーン、オン、オンという鐘の唸りの中に、多くの音がさまざまなレベルの音量で隠れていることに気づかされた。複雑な音の重なりとゆらぎが重厚な梵鐘の響きを作り出し、音色に深みをもたせている。瞬間的にとらえた「ミ(E)」という音は、その音色の一部分でしかなかったのである。
 前出の中川氏は、梵鐘の音高の確定は、基音かそれとも「聞こえ」を基準にするのかについて、基本的には基音を重視しなければならないとしている。しかし清水寺(京都)のように基音がほとんど聞こえない例では、「聞こえ」を採用するしかないが、梵鐘の「聞こえ」は、複雑であり、場所によって異なった音高に聞こえることがあると述べている。
 梵鐘の音の複雑さは、科学的機器によって分析され、はっきりとした数値で表されるようになった。しかし人間の耳がとらえる音にはFFTにも現れない架空の音(結合音)さえも聞こえてくることがある。観世音寺鐘では、「オシ」と「オクリ」部分に関して、音のゆらぎの裏側に「ファ#(F#)」の音が聞こえる。部分音の周波数分析には現れていない音である。実際には鳴っていない音、しかし人間の耳には届くという、まるで天籟の音である。このような不思議な音だからこそ、梵鐘の音の魅力は尽きないのである。
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観世音寺鐘の各部分音の周波数
 ここで大熊氏の調査研究データから、実際にどのような音が鳴っているのかをご紹介する。実際の研究は、基音(f1)に対する周波数比(f2以降)で表されているが、それを具体的な周波数に置き換えたものが以下の表である。
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 このように具体的な音高が分かると、文頭に述べた除夜の鐘中継で聞こえてきた「ミ(E)」の音が、部分音の一つであったということが、あらためて理解できるのである。 イメージ
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鐘楼にあった鐘
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文化交流展示室にて展示中
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参考文献
中川眞「(増補)平安京 音の宇宙」平凡社
栗原正次「梵鐘における部分音の強度分布の時代的変遷」日本音響学会誌37巻第12号(1981)
大熊恒靖「梵鐘の音の部分音に関する時代的変遷」日本音響学会誌54巻第2号(1998)
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《次回、観世音寺の梵鐘の音2》
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