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イメージ 連載:温故知新3 〜人体彫刻制作における“型とかたち” 2〜
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イメージ 矢野 真
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刻作品において人体から直接型を取る「直取り」の持つ意味を探るにあたり、まずは人体彫刻と「直取り」の歴史と背景を明らかにしていきたいと思う。
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 人体と彫刻との関わりは、紀元前3万5000年もの昔であるオーリニャック期の石彫による造形から始まる。しかし、15世紀から16世紀のルネッサンスまで、人体から「直取り」したという事実は見あたらなかった。「型を取る」ということでいえば、古代オリエントにおける粘土板にローラー式で転がす円筒印章はあったのだが。
 ルネッサンスにおいて、人体彫刻は古代彫刻の精神を吸収しながら、解剖学や遠近法などの技法を取り入れることにより、技術面で大きな発展をとげた。それらはドナテルロ(Donatello, 1386−1466)やミケランジェロ(Michelangelo Buonarroti, 1475−1564)の作品をみても、人体観察の上に立った性格描写の強い人物像がみられることからも明らかである。そうしたなかで、オットー・シュテルツァーによれば、イタリアの初期ルネッサンス時代にはすでに「モデルの体をじかに石膏で型取り、それを下地として制作された形跡がみられる塑像作品がある」との記述がある。
 この時代と同じ1460〜90年代、フィレンツェ彫刻の第1人者でもあるアントニオ・デル・ポッライウオーロ(Antonio del Pollaiuolo, 1431頃−1498)は、弟ピエロ(Piero del Pollaiuolo,1443−1496)と共同で多角的な大工房を経営し、彫像、墓碑、建築装飾、版画、仮設装飾物のデザインなどのあらゆるジャンルと技法にまたがる制作活動を展開していた。その中でも特筆すべきは、デス・マスクの制作が行われていたことである。デス・マスクとは、亡くなった人の顔を「直取り」することである。ポッライウオーロ兄弟が10年の長期にわたって制作したサン・ピエトロ大聖堂にある「教皇シクストゥス4世墓碑」は、明らかにデス・マスクに基づいてつくられている。
 さらにもう一人、この時代の巨匠であるアンドレア・デル・ヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio, 1435−1488)は、メディチ家のために行った仕事として20個のライフ・マスクを制作したことが、1495年弟のトンマーゾがメディチ家の未払いの報酬を官庁に請求した作品リストにみることができる。つまり「直取り」の技術がこの時代すでに彫刻家の仕事の一つとしてあったことがわかる。デス・マスクやライフ・マスクに基づく作品発注があったことから、それらが彫刻作品に部分として組み込まれた可能性もあったのではないだろうかと想像される。
 17世紀から18世紀にかけては、人体解剖模型にデス・マスクやライフ・マスクが盛んに制作されていたことはわかっている。その一方で美術表現として「直取り」を行ったという作品の記述を見つけ出すことはできなかった。
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 美術としての「直取り」が現れるのは19世紀に入ってからである。この時代には、「直取り」を公的私的ともに徹底されて用いられていた。例えば、スウェーデンのイェーテボルイ美術館にあるエドゥワール・ダンタン(Edouard Dantan, 1848−1897)の一枚の油絵に象徴的にみることができる。「人体からの型取り」(1887年 油彩 165×131.5cm)には、彫刻家のアトリエが描かれており、台の上でその当時流行った噴水像の刺激的なポーズをとっている少女ヌード・モデルの生身から、芸術家と中年の助手が石膏塑像をつくろうとしている。今日この絵を見ると、この時代の彫刻家の作品があまりにも生々しいということに対する‘皮肉’を込めて表現したのかもしれないと考えさせられる。しかし、彫刻家のアトリエ内部や制作の行程がわかる風景が緻密に描写されており、実際に「直取り」が頻繁に作品として使用されていたことがうかがえる。
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 ある彫刻家が「直取り」したことを理由に非難を浴びるという事態も起こった。その作品は、オーギュスト・クレザンジェ(August Clesinger, 1814−1883)の発表した「蛇に噛まれた女」(1847)である(図1)。当時巷間で有名な娼婦をモデルにしたこの作品は、石膏像の段階でモデルから「直取り」を行った(頭部はクレザンジェ自らの手で制作を行っている)。この女性からの「直取り」の石膏像をもとに大理石の本作品が制作されたが、この官能性あふれる女性像は「直取り」をもとに制作を行ったということで、非難を受けたのである。
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(図1)「蛇に噛まれた女」(1847) オルセー美術館
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<参考資料>
・ 矢野 真「型とかたち−人体彫刻制作における『直取り』のもつ意味」2006 美術解剖学雑誌 第10巻第1号 pp28−37
・ オットー・シュテルツァー著,福井信雄・池田香代子 訳「写真と芸術 接触・影響・成果」1974 フィルムアート社
・ 森田義之「ヴェロッキオと15世紀後期の彫刻」『世界美術大全集第11巻』1992 小学館 pp98
・ 高橋幸次「レアリスム時代の彫刻」『世界美術大全集第21巻』1993小学館 pp347
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